─答えの出ないものだから、今も考え続けている。─『his』宮沢氷魚インタビュー

CULTURE / ART

現在、恋愛映画の旗手として大注目されている今泉力哉監督の最新作『his』が、1月24日(金)からロードショーされる。本作で描かれているのは、男性同士の恋愛だ。ふたりの恋愛を軸に、「好きだけではどうしようもない」現代社会の問題や、それを乗り越えていこうと奮闘する人間たちの姿がリアルに描かれており、今泉監督が新境地に挑んだ意欲作として注目を集めている。主役のひとり、井川迅(いがわしゅん)を演じた宮沢氷魚に、公開直前の心境を聞いた。

──映画『his』、いよいよ公開です。今の心境は?

まさに「いよいよだな」という気持ちです。撮影は2019年の春だったので、時を超えるような不思議な感覚もありますね。でも迅の気持ちは、途切れることなく僕の中にありました。それだけ思い入れがある作品です。LGBTQを題材にした映画に出演することも、僕には意義のある挑戦でした。一方で、みんなに「素晴らしい」と言ってもらえるテーマではないということも理解しているので、観た方がどんな感想を抱くのか、楽しみでもあり、ちょっと怖くもあり…。僕らは作品に対して自信を持っていますし、観てくれる方がいてこその映画だと思うので、どんな声でも受け止めたいです。

 

──試写会や先行公開での反応は?

ありがたいことに、とてもいいんです。「近年ナンバーワンの映画です」とか、「おもしろかった」「何度も泣きました」とか…。迅と渚の愛の描きかたが良かったと言ってくださる方もいれば、家族の関係性や、作品全体を通して流れている雰囲気が良かったと言ってくれる方もいて。本当に嬉しいです。

 

──印象深いカットばかりですが、迅が、心の拠り所となっている(鈴木慶一さん演じる)緒方と狩りをしに行くエピソードが、とても印象に残りました。

僕もあのシーンが一番好きです! 緒方さんとのシーンは、普段心を閉ざしている迅が、少しだけ心を開いて、自分に正直になる瞬間が垣間見えるんですよね。全編を通して、迅的にはしんどいというか、精神的にキツいシーンが多くて。緒方さんとやりとりしている時だけは、心がほっこりしていました。彼の存在は、とても大きかったです。

 

──緒方さんを演じられた鈴木慶一さんの存在も、宮沢さんにとって大きかったのでは?

そうなんですよ。鈴木さんは僕が小さい頃、とてもお世話になっていた方なんです。『Beautiful Songs』というコンサートで、鈴木さんと僕の父(宮沢和史さん)が共演していまして。大貫妙子さん、奥田民生さん、矢野顕子さんと5人で全国ツアーを開催していたんですよ。その現場で、よく鈴木さんに可愛がってもらっていました。そういう繋がりがあったとはいえ、10数年ぶりの再会だったので、こういうご縁もあるんだなぁ、と。

 

──意図したキャスティングだったのでしょうか?

確認はしていないのですが、おそらく偶然だと思います。僕も誰が緒方さん役を演じるのか、衣装合わせ当日まで知らなかったんです。写真付きのキャスト一覧をもらって、「あれっ、鈴木慶一さんだ!」と。一気に安心感が生まれました。何かあったら守ってもらえるだろうな、と(笑)。再会した時は、懐かしさに包まれました。鈴木さんには「大きくなったねぇ!」と驚かれ…。幼い頃の僕を知っていて、この仕事を始めてから再会した方には、必ずそう言われます(笑)。

 

──実は映画が始まってから、なかなか感情移入ができず…。(藤原季節さん演じる)渚の振る舞いに腹が立ち、それを受け入れる迅にもイライラしました。

そうおっしゃる方、とても多いです。正常な感覚だと思います(笑)。

 

──観ている人にそう思わせるような芝居をしてほしい、というような要望は、今泉監督からありましたか?

なかったですね。なんなら監督が一番悩んでいらしたので、いつも「とりあえず段取りやろう」から始まって、僕と季節くん、共演者みんなで話し合いながら段取りをして。それを見た監督が「じゃあ、ここはこうしてみる?」とか、いろいろと試しながら撮影して行きました。「こういうシーンにしたいから、こういう芝居にしよう」みたいな演技プランは、一切なかったです。テーマがテーマですし、僕らも答えのないものに向かって模索している感じで、即興劇のようになった時もありましたね。そのとき生まれたものをキャッチしておいて、次のシーンに活かす。その繰り返しでした。

 

 

──撮影から少し時間を経た今、印象の変わったシーンや、ふと思い出すシーンはありますか?

あとから好きになったのは、(松本穂香さん演じる)美里ちゃんと迅が、車の中で話し合うシーンです。撮影当時も胸が締め付けられたのですが、時間が経ってみると、美里ちゃんの覚悟というか、迅への思いやりの気持ちが、より沁みてきますね。迅本人は、あの土地で、ずっと孤独を感じていたと思います。作品の描き方も、最初はあえてそこを際立たせているかもしれません。本当は、美里ちゃんや緒方さん、理解のある人たちにそっと支えてもらっていたんだなぁというのは、時間が経ってから強く感じるようになりました。

 

──迅と渚、二人の想いがひとつに重なるだけではなく、大きな世界へと広がっていくところが『his』の素晴らしさだと思いました。宮沢さん自身は、最近気づきのあった出会いや言葉などはありますか?

ごく普通のことなんですけど、去年末、いろんな方から「この1年、よく頑張ったね」と言ってもらえたのが、すごく嬉しかったというか、報われたというか。というのも、2018年の夏の終わりから去年いっぱい、ずっと何かの作品に携わっていまして。とてもありがたいことなのですが、心と体がすり減るような時期もあったんです。でも「頑張ったね」の一言で、胸につかえていたものが、スーッと降りていくのを感じて。自分を見守ってくれている人が頑張りを讃えてくれたことで、救われたんです。迅の気持ちにも重なりました。

 

──ASBSのテーマが「私らしく生きる」なのですが、宮沢さんが自分らしく生きるために心がけていることは?

この仕事をしていると、自分の立場とか、人からどう思われてるかとか、わからなくなる時があって。なんかちょっと自分らしくないなとか、地に足着いてないなと思ったら、仕事を始めた時のことを思い出すようにしています。事務所に入った当初は、本当に仕事がなかったんですよ。オーディションに30件ぐらい連続して落ちて。「このままじゃマジで事務所をクビになる!」と思ったし、期待をかけてくれていた当時のマネージャーさんも「こんなに決まらないとは思わなかった」と(笑)。今はたくさんお仕事をさせてもらっているよと、あの頃の自分に言っても、絶対に信じないと思います。

 

──自分で何か意識を変えた?

いや、意識は変わってないと思うんです。合格しなかったのは単純に実力不足。とは言え、不合格の連絡が来ればショックだし、「これは絶対大丈夫!」と言われたものまでダメだった時は、ひどく落ち込みました。でも30件も落ちたことで、逆に「これ以上、決まらないなんてありえない」と思って、受け続けたんですよ。そうして初めて合格したのが「MEN’S NON-NO」だったんです。僕は自分らしく生きるために、自分の現状をつねに把握するようにしています。もし迷ったら、初心に返る。そして、やっぱり諦めないことが大事じゃないかな。

 

──映画『his』も、これからの役者人生において何かの起点となる作品になりましたか?

そうですね。携わった全作品そうであるのですが、今までで一番悩み苦しんだ撮影だったので、完成したものを観た時の達成感は格別でした。間違いなく、僕の特別な作品になりました。

 

Staff Credit

Photographer:MURA
Interview&Text:瀬尾 水穂
Editor:畔柳 涼吏

INFORMATION

『his』
2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

©2019映画『his』製作委員会

<あらすじ>
周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと田舎暮らしを送っていた迅のもとへ、13年前に出会い、愛し合ったかつての恋人・渚が現れる。迅の大学卒業目前、一方的に別れを告げた渚は、のちに女性と結婚。娘の空をもうけたが、今は離婚協議をしているという。6歳の空とともに「しばらくの間、居候させて欲しい」と頼まれた迅は、戸惑いながらも3人での共同生活を開始、周囲の人々も若い彼らを見守る。だが空の親権問題を発端に、ふたりが同性愛者であることが、周囲に予期せぬ影響を与え始め…。

監督:今泉力哉
企画・脚本:アサダアツシ
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:https://www.phantom-film.com/his-movie/

ASBS

ライフスタイル・ファッション・ビューティーなどの情報を中心に、東京の今を読者に届けていきます。また、「自然体のオシャレでいられる」「オシャレの居場所を見つけられる」という価値を世の中の女性にもたらしていくことで、人々の生活を豊かにしていくメディアです。