今月の書評『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

CULTURE / ART

今まで読んできた本は数知れず、小説、ノンフィクションなどジャンル問わず乱読してきて数十年。好きな作家は太宰治。夜は新宿三丁目でお酒を楽しむのが日課。人生の大先輩”ふさお”さんが毎月おすすめの本を紹介していきいます。

“ アイデンティティーは一つではない 〜母と息子の物語〜 ”

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ〈著〉 新潮社/1,485円(税込)

日本で開催中の「ラグビーワルドカップ2019」が大きな盛り上がりを見せている。

中でも日本人のエスコートキッズが、ウルグアイ、南アフリカ等の国歌を選手と一緒に歌う姿が、世界に反響を呼んでいるという。

 

本書は、母と子の物語である。

場所は英国・南端のブライトン。父は勤務先の銀行をリストラされた
トラック運転手のアイルランド人。

母はパンク音楽が好きな、元保育士見習いの日本人。

中学校に入学した、10歳の息子との1年半の日常を描いている。

 

英国の小・中学校は、公立でも保護者が学校を選ぶことができる。

小学校は名門のカトリック校に通い、最後は生徒会長まで務めた息子。

そんな彼が、よりによって人種、貧富がごちゃ混ぜの「元・底辺中学校」を
選んだ。

母からすれば、セックスピストルズ、ピンクフロイド、オアシスといった

アルバムジャケットが廊下に貼られているのを見て、興味を唆られるのだが。

 

早速、事件は起こる。

ミュージカルの練習で、黒人の女の子がダンスを覚えらえないことに男の子が『ブラックのくせにダンスが下手なモンキー。バナナをやったら踊るかも』

と笑ったという。

そういう彼も、ハンガリー系の移民なのだが。

怒る息子に母は言う。

『無知なだけ。大人の言っているのを聞いて真似しているだけで、知る時が来れば無知でなくなる』

 

ある時、母がボランティアで、学校の古着の制服を繕っていることを知った息子が、『友達が制服が擦り切れても、まだ着ている。何とかならない?』と相談する。

母は快諾するが、息子はジャージをどう言って渡したら良いか?を悩む。

友人の家は貧しく、新しい制服が買えないのだ。

傷つけることなく、渡す理由が見つからないまま、家に友人を呼んだ息子。

母も、うまい理由が思いつかない。

帰ろうとする友人に、おもむろに制服を渡す息子。

『どうして、僕にくれるの?』

『友だちだからさ。君は僕の友だちだからだよ』

帰っていく友だちの後ろ姿を、いつまでも見送る息子。

その息子を見る、母の眼差し。

 

日本に帰省した時、日本語が判らない息子が「ガイジン」と呼ばれ

しばらくしてから母に、あの時の「ガイジン」の意味について

整然と話す息子。

 

LGTBQに関する授業、生徒による地球温暖化のデモへの参加可否まで

日本では考えられない学校での出来事について、母に質問する息子。
ホームレスへのボランティアを経験し、英国社会の理不尽さを、母にぶつける息子。

 

読みながら度々考えた。もし、日本人の若者だったら‥と。

英国、日本、どちらが良い、悪いと比べることは出来ない。

ただ、息子と同じ場所にいたとしたら、おそらく逃げ出すのではないか。

先般の台風19号で、避難所を訪れたホームレスの受け入れを拒止した社会。

これを「平和」といっていいのであろうか。

 

本書の母と息子は、とにかく会話をする。

話すことの大切さを、改めて感じた。

その母の視線が、知らない間に息子を仰ぎ見ているように感じたのは

気のせいであろうか。

「ラグビーワールドカップ2019」で、日本人のエスコートキッズが

国歌を歌ったことで、これから海外に興味を持ってくれたら嬉しい、と
思った。

 

 

Credit

WRITER:ふさお

INFOMATION

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ〈著〉 新潮社/1,485円(税込)

 

フレディみかこ

保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。(新潮社HPより)

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