―不器用な優しさと温かい音楽が、心を解いてくれる― 映画『いちごの唄』石橋静河インタビュー

CULTURE / ART

7月7日、七夕の日。そして親友の命日。僕は環七通りで10年ぶりに「女神」と再会した――。数々の名作を手がけた脚本家・岡田惠和と、銀杏BOYZの峯田和伸が共作した話題の青春映画『いちごの唄』が、7月5日からロードショーされる。古舘佑太郎演じる主人公・コウタが恋する“あーちゃん”こと「天野 千日(あまの ちか)」役を演じた石橋静河に、撮影裏話、そして「私らしく生きる」ために実践していることを聞いた。


―主人公・コウタから「女神」と崇められるヒロイン、“あーちゃん”こと天野千日を演じるにあたって、心がけたことは?

この作品は、コウタ側から世界を映し出すことが多いので、コウタが「女神」と呼びたくなる魅力をちゃんと出せたらいいな、と。その一方では、私が演じる千日が、過去のトラウマのようなものから抜け出せないままでいる理由に、説得力を持たせるお芝居をしたいと思いました。

―千日には、中学生の頃にクラスメートが自分をかばって交通事故で亡くなった…という悲しい過去があります。

千日が前に進めなくなった原因は、回想シーンで清原果耶さんがしっかりと演じてくださっているので、私は、コウタと再会するまでどう生きてきたのか、再会後も会っていない時間はどう過ごしているのかを考えました。千日は、コウタと会っている時だけ笑顔でいられるんですよね。実際、撮影も古舘さん演じるコウタと二人きりで歩いたり、しゃべったりするシーンが多かったんですけど、コウタと一緒にいるだけで、自然と笑顔が増えていることに気づきました。だって、強烈なキャラクターなんです(笑)。

―それはコウタが? それとも古舘さん自身?

アハハ、両方なのかな?(笑) 古舘さんの演じるコウタは、本当に強烈でした!

―コウタの存在は、インパクトのかたまりでした。ついクスッと笑ってしまう千日の気持ちがわかります。

古舘さんが演じるコウタの表情に思わず吹き出してしまうこともあって。そんな時でも、「えっ、なんで笑ってるの?」っていう顔をするんです。それがまたおかしくて!

―コウタと千日が食事をするラーメン屋の店主、峯田和伸さんのお芝居が、また絶妙でしたね。

そうなんです。峯田さんも面白くて、私はひとり、このおかしな状況にどう立ち向かえばいいの!?と(笑)。コウタといることが「本当に楽しい」という気持ちがあるにせよ、やっぱり無防備に笑っては、千日の抱えているものが見えなくなってしまいますから。でも、(カメオ出演している)みうらじゅんさんと田口トモロヲさんがラーメン屋さんにいらっしゃったシーンは、もう笑いをこらえるのに必死でした。実際、吹き出してNGも出しました(笑)。

―観客としては、あの千日の笑顔が本物だったことに救われました。コウタの周りにいる人は、みんな優しい人ばかり。それはコウタ自身が、周りの人を優しくする不思議な力を持っている人だからなのかも。

千日は、悲しみや苦しみで、自分自身をグルグル巻きに縛りつけている部分があるんです。それは他人から「大丈夫?」「頑張って!」って言われても、全然ほどけない。だけどコウタといると、彼が発する不器用な優しさに触れて、自分を縛り付けていたものが少しだけ解れていくんですよね。その感覚を手掛かりに、演じていこうと思いました。

―完成された作品を観て、どう感じましたか?

観るまでは不安でした。撮り終わってから「あれでよかったのかな?」と思ったシーンもいくつかあって。特に千日が自分の本当の気持ちをコウタにぶつけるシーンは、どうしたらいいかとかなり悩みました。でも完成した映画を観た時、そのシーンに流れる音楽が、千日の心情にすごく寄り添ってくれていたんですね。音楽だけではなく、映像自体の切り取り方、清原さん(千日の中学生役を演じた清原果耶さん)の回想シーン、そのすべてが見事に重なって、ちゃんと千日の気持ちを伝えてくれていたので、ホッとしました。ああ、映画って、ひとりだけが頑張って見せるものじゃないんだなぁ、って。

―劇中に流れる銀杏BOYZの楽曲は、コウタや千日の喜びや悲しみをより深く伝えてくれる、まさにテーマ曲でした。

私だけでなく、コウタも親友を亡くすという辛い経験をしていて。みんな重い過去を背負ってるんですけど、決して重苦しい映画ではないんですよね。軽やかで、素敵な音楽が流れていて、何かこう、すごく強い明るさがある。だから私も、今回は千日の持つ辛さに浸っているだけではいけないな、と思ったんですよね。

―というと?

これまでは、ひたすら役の気持ちを理解することが自分の役割だと思っていたんです。実際、「あまり作り込まず、感じたままに動いてください」と言われた現場が多くて。でも今回は、それだけじゃ足りないな、と感じて。役に浸るだけではなく、そこから一歩引いて「この気持ちを最も的確に伝えるには、どうしたらいいだろう?」と考えながらシーンを作っていったんです。これは初めての経験でした。

―新たな表現方法が生まれた作品になったのですね。女優として、様々なキャラクターの人生を演じてきた石橋さんが、「私らしく生きる」ために大切にしていることはありますか?

わりと幼い頃から自由奔放に育てられてきまして(笑)。特に15歳からはボストンにバレエ留学をしていたのですが、自分の意見を主張していかなければ周りが理解してくれない環境だったんです。違和感を感じたのは、留学から帰ってきてから。英語で物事を考えるときって、「私はこれが好き。なぜなら◯◯だからだ」とか「私はこれが嫌だ。それは◯◯だから」っていう感じで、まずハッキリと自分の意思を伝えて、理由は後付けじゃないですか。この思考を日本語に置き換えてしまうと、すごく語気が強くなってしまうんです。実際、私の言葉で相手を傷つけてしまったり、嫌な気分にさせてしまったこともあったりして。私自身にそういった意図は一切ないので、「どうしてだろう?」と苦しんだ時期もありました。単純に、言語の違いだということを理解してからは、少しずつ気をつけるようにして、そのストレスからは解消されていきましたが…。あれ、質問の答えになってないですね!?

―いえいえ、大丈夫ですよ。

よかった(笑)。「自分らしくいたい」と思うのって、何らかの理由で自分らしさを制限しているからじゃないかと思うんです。私も新しい現場に行ったり、初対面の人に会う時は、すごく緊張しますし、「今はまだ、あんまりしゃべらないほうがいいな」とか空気も読みます(笑)。でも、居心地が良くないと感じる場所がなくなってきたのは、私が人に興味を持つようになったことが、ひとつの理由だと思います。

―人に興味を持つようになった、そのきっかけは?

お芝居を始めたからです。役を演じる上で、「この人が、こういう行動をするのはどうしてだろう?」と考えているうちに、自然と「周りの人が考えていることを、もっと知りたい」と思うようになりました。自分が相手に何かを求めるのではなく、相手から求められたことに自分が応えたい、という気持ちが強くなっていったんです。

―どこか『いちごの唄』の物語にも重なるお話です。

相手に対して心を閉じないことが大事ですよね。いきなりは無理でも、できるだけ心をオープンにする。そして相手をどう受け入れるかだけではなく、相手に受け入れてもらうことも想像する。そうしたら「私は、ここにいていいのかな?」と思うことがなくなるし、結果として、自分らしくいられるようになるんじゃないかな。私はそうでした。

―ちなみにお休みの日は、何をしていますか?

古着屋さんへ行ったり、音楽を聴いたり。今回のご縁で、峯田さんのライブにも行きました。最高のステージでした! 映画でも素敵な楽曲がたくさん流れていますので、ぜひ映画館で聴いていただきたいです。

 


 


Profile

石橋静河(いしばししずか)/1994年生まれ。2015年より舞台や映画に活動を広げ、16年にNODAMAP舞台「逆鱗」に出演。17年には初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也監督)などで、第91回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数多くの新人賞を受賞。近作に『きみの鳥はうたえる』(18/三宅唱監督)、『二階堂家物語』(19/アイダ・パナハンデ監督)、『21世紀の女の子』(19/「ミューズ」安川有果監督)など。

CREDIT

Photographer:MURA
Writer:瀬尾水穂
Stylist:小山田孝司(ザ・ボイス)
Hairmake:村上綾
Costume:ANDYKEY
Edit:畔柳涼吏

INFOMATION

いちごの唄

あらすじ:恋をした。七夕、親友の命日にだけ会える、僕たちの”女神”に。
コウタは不器用だけど優しい心を持つ青年。唯一の親友だった伸二は、中学生の頃2人が“天の川の女神”と崇めていたクラスメイトのあーちゃん(天野千日)を交通事故から守り亡くなった。10年後の七夕、伸二の命日。コウタと千日は偶然高円寺で再会し環七通りを散歩する。「また会えないかな」「そうしよう。今日会ったところで、来年の今日・・・また。」コウタはカレンダーに印をつけ、この日だけを楽しみに一年を過ごす。
次の年も、その次の年もふたりは会い、他愛ない話で笑いながら環七通りを散歩する。
しかしある年、千日は自分と伸二の過去の秘密を語り「もう会うのは終わりにしよう」と告げる。

公開日:2019年7月5日(金)
原作: 岡田惠和・峯田和伸「いちごの唄」(朝日新聞出版)
監督: 菅原伸太郎
脚本: 岡田惠和
出演: 古舘佑太郎、石橋静河、峯田和伸、宮本信子
配給: ファントム・フィルム
公式サイト: http://ichigonouta.com/?utm_source=twitter
予告動画: https://www.youtube.com/watch?v=xl5j-DTNjLU
Twitter:https://twitter.com/ichigonouta

ASBS

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