カレーときどき村田倫子 #35 アジアンダイニングカフェ&バー シャンティ
無類のカレー好き村田倫子が、月に1店カレー屋さんを訪れる連載「カレーときどき村田倫子」。運ばれてくるとっておきの逸品、その向こう側に流れるの十人十色のシェフ&オーナーズストーリー。そんな一皿に詰まったこだわりと、ここにしかない出会いを紐解きたい。 今一番食べたいカレーを求めて、そして、今一番会いたい人を訪ねて。さあ、はりきって、スプーンと筆を手に取ります。 今月の名店は学芸大学のアジアンダイニングカフェ&バー シャンティ。素敵なご夫婦が営む、あたたかなお店。ネパール出身のシェフ自慢の本場のダルバードはもちろんのこと、そのときどきの旬の食材からひらめくというアイデア満載の週代わりカレーも必見、いや必食!
春がきた。
学大駅に降り立ち、賑やかな商店街をぬけて少し。
異国情緒なカラフルな壁画が現れる。
ヤシの実が覗く外観からは南国の予感?
しかし、店内から漏れ漂う香りは刺激的なスパイスの香り。
あぁ、お腹がすいた。スパイスの魅惑に誘われるまま、中へ。
Shanti(シャンティ)。
ここは、ネパール料理を基調としたカレー屋さん。
最近は南インド、スリランカのお店が多かったので久々のネパールのお味。
連載初期に訪れた、新大久保のアーガン以来かも…。
扉をくぐると、ブルーのシャドウが似合う、チャーミングな女性がお出迎え。
しのぶさん。ここシャンティのオーナーさんです。
会った途端に「イエーイ!」とハイタッチをしたくなるような(流石にびっくりされるので我慢しましたが)、明るく優しい人柄が滲み出る愛嬌は、まるで南の国の太陽のよう。
キッチンでスマートに鍋を振るう素敵なネパールの男性はここの店長であるGAURABさん。しのぶさんの旦那さんです。
夫婦で営むあたたかな空間です。
ネパールでは、豆カレーをご飯にかけ、数種類の副菜やメインのカレーを自由に混ぜて楽しむ「ダルバード」という定食がある。シャンティでも、メインのカレーを選べるダルバード(¥1100)はお店の人気メニュー。
そして、マニアの間で噂の「週替わりカレー」も見逃せない。
この連載の読者の方々も、気になりますよね、、、?
よし、2つとも頼んじゃうぞ〜!(嬉)
ダルバードのメインカレーは、チキン、マトン、ポーク、野菜から選ぶ。私は好物のマトンをチョイス。
ダルという豆のカレー、マトン、青菜の炒め物、じゃがいものアチャール、チャトニ、パパド。銀の食器にオールスターがずらっと並ぶダルバード。
まずはダルを一口。
ほどよい塩気と甘みがすっと素直に身体に沁みる。
風邪をひいたとき、母がつくるお粥の美味しさを目頭を熱くして噛み締めた、
あのなんとも言えぬ包容感。ここのダルはそんなあったかさが宿ってる。
あぁ、すきだなあ。
一方、マトンのカレーは濃厚なコクとごろっとしたマトンで食べ応え十分。
玉ねぎとトマトでじっくり引き出された自然な旨味は、舌先にしっかりとしたタッチを与えつつ、くどさは全く残さない。
こちら側がつい追いかけてしまうほど、余韻の引き際がずるい。
どちらのカレーも、過剰にスパイスの香り、辛味、酸味は主張し過ぎず、
素材の本来の味をエスコートするその立ち振る舞いは、とても紳士的。
異国のカレーは、スパイスたっぷり、玄人向けの辛いもの…と思っている方も多いかもしれませんが、ネパールのカレーは素材本来の甘みや旨味を楽しむ優しいカレーなんです。
ブーケのようなパパドは、シャンティからのちょっとしたおもてなし。(パパド好きなんです…)
一通りカレーそのもののスペックを確かめ味わったら、ダルを北海道産の「ななつぼし」と十五穀米でブレンドしたライスの上にかけおかず達とのハーモニーを楽しむ。
優しいベースに、食感や他の素材の旨味が重なってより味に奥行きが増す。
お米の山はみるみる崩れていきます。シンプルだけど計算尽くされている黄金比。あぁ、美味しいです。
さてさて、続きますよ!
こちらも忘れちゃならない今週のカレー、「ハーブチキンターリー」(¥1800)
桜シーズンの特権さくら色の愛しいバスマティライスに、ふと目尻が下がる。
より華やかに色づいたダルバードは食卓に花を添え、豪華でセンス溢れるラインナップに溜息すら漏れる。
この日のラインナップはダルカレー、ハーブチキンカレー、ソーセージと青菜炒め、ポークセクワ、グンドゥルク(乾燥した葉っぱ)のアチャール、チャトニ、新玉ねぎのサラダ、桜ライス、パパド。
”映え”を意識し過ぎたカレーは、あまり好きではないけれど
こんな風にさりげなく季節の趣を取り入れると、自然と華やかな出で立ちになるのですね。こういった純な映えは、どんどん浸透してほしいものです。
今週の目玉ハーブチキンカレーは、さらっとしたスープにチキンの出汁、生姜とニンニクの旨味、そしてレモングラスの清涼感が口内を幸福に満たす。
そこに、「きゅっ」という新たな食感。
ん?チキンではないし、なんだろう…
干瓢のようなシコッとする歯応え…。
答えは「切り干し大根」でした。
しかもこちら、オーナー自家製!
なので、サイズも馴染みのある姿より肉厚で大きい短冊サイズ。オリジナリティ溢れる仕掛けは、いただく方も楽しい。炭火で焼いたポークセクワと、トマトや山椒、にんにくなどの薬味でブレンドしたチャトニの相性も抜群で、これだけでもご飯が進む。
様々な素材の組み合わせと、こだわりぬいたカレーとの重なり。
自らでつくるスプーン一杯の一口は、毎回違う出会いと発見がある。
もっと知りたくて、知りたくて、スプーンを動かす手は速度を増す。
模範解答がないからこそ、カレーは魅力的で飽きがこないんです。
あぁ、好きが募るばかり。
ここシャンティでは、カレーの他にも豊富なサイドメニューが控えている。
ぜひ食べてもらいたいのは「モモ」。ネパールで愛されている餃子です。
ここでも定番から、ジビエまで様々なモモが楽しめます。おすすめはシカ。
モチっとした皮から、じゅわんと沁み出すジビエの旨味がたまらなく色っぽくて、これとビールだけでも幸せ。
中央に添えられたトマト、ゴマ、にんにく、しょうが、山椒でほんのりピリ辛な自家製ソースにつけて味にアクセントをつけても良し。
食後は、ラッシーと迷ってシャンティオリジナルのスムージーで甘党欲を満たす。
季節のフルーツを存分に使ったスムージー。とくに夏には、しのぶさんが奄美大島から取り寄せた南国フルーツにこだわって、多様なスムージーを出しているそう。
実はしのぶさんは、夜は神田でスナックのママとしての顔も持つ。
溢れ出る愛嬌となんだかほっとする包容感、あのファーストタッチの感触はそうゆうことね!ふと腑に落ちる。
かつてインドカレー屋さんで働いていたことがあり、その時の同僚だったのがGAURABさん。故郷ネパールでもカレーを作っていた経験を持つ夫と2人でやるならカレー屋しかない!と、お店をオープン。
彼の故郷であるネパールに絞りつつ、旬な食材やアレンジを効かせた独自のメニューも研究&展開しています。
2人の出会いのきっかけでもあり、今、日常を紡ぐ主軸となっているカレー。
カレーは愛をも育むのね…。
おいしいカレーと幸せな気持ちにほくほくしながら、東横線のホームへ。
よし、週が変わったら、また来よう。
Text:Rinko Murata
Photo:Kayo Sekiguchi
Edit:Miiki Sugita
INFORMATION
アジアンダイニングカフェ&バー シャンティ
住所:目黒区鷹番3-12-3真田ビル1F
電話番号:03-6303-3570
営業時間:11:00-15:00(L.O.14:00)/17:00-23:00(L.O.22:00)
定休日:水曜日
公式Instagram:@asiandiningshanti