カレーときどき村田倫子 #33 平日昼だけ
無類のカレー好き村田倫子が、月に1店カレー屋さんを訪れる連載「カレーときどき村田倫子」。運ばれてくるとっておきの逸品、その向こう側に流れるの十人十色のシェフ&オーナーズストーリー。そんな一皿に詰まったこだわりと、ここにしかない出会いを紐解きたい。 今一番食べたいカレーを求めて、そして、今一番会いたい人を訪ねて。さあ、はりきって、スプーンと筆を手に取ります。 今月の名店は東高円寺の平日昼だけ。満腹中枢にも胃袋にも優しさを。ハイボリューム、NO胃もたれの奇跡のギャップ逸品、和だしそぼろカレーここにあり!
ふと空いた平日の昼下がり。みなさんはどう過ごしますか?
家でごろごろ、贅沢に時間を堪能するプラン。うーん、中々魅力的です。
でもね、せっかくの貴重な午後。平日昼だけにしか味わえない刺激を求めて、少し冒険してみるのはどうでしょう?
そんなハングリーなあなたにぴったりなカレー屋さんがあるのです。
「平日昼だけ」
その名の通り、平日のお昼にだけ味わえるカレーです。普段の休日ではたどり着けない幻の一皿。
あぁ、気になる、気になりすぎる、、、、。
私はどうも、リミテッドがあるもの、限られているものに弱くて、つい、その蜜を味見したくなってしまうのです。そんな逸品の魅惑のベールを剥がす機会がやっと訪れました!
降り立つ土地は、私の大好きな高円寺。この連載で幾度となく足を運んでいる、マイカレーパワースポットです!そして今回は高円寺は高円寺でも、東京メトロ丸ノ内線の東高円寺駅が最寄り。
いつもとは少し違った角度からの高円寺攻めにドキドキしながら、向かう先に目印の看板が!
右に曲がって少し、あっと足が止まる。
とある一角だけ、明らかに異質な空気を孕んで、門を構えている。
無造作に、芸術的に、アンティークな品々が城の骨格と装飾となり来客を歓迎してくれる。
出で立ちから、「本日の旅は勝ちだなぁ…」むふふと口角があがります。
ではでは、扉を開けて、お邪魔します。
視覚いっぱいに飛び込んでくる世界観。
まるで、子供の宝箱に迷い込んだようです。実はここ、普段は「シュワルツカッツ」というカフェなのだそう。主に金曜夜・土・日・祝日に営業をされているそうで、「平日昼だけ」は空いた時間に間借りで営業をされているというのです。こんな空間で大好きな食べ物(カレー)をいただけるとは、なんて贅沢なのだろう!
本命のカレーは「和だしそぼろカレー」(¥980)一択。(食後にセルフコーヒーのサービス有)
限定と限定の掛け合わせ。好きな演出です。トッピングは好きなものを。
せっかくだし、迷いなく「全部のせ」(¥300)でしょ?(50円お得なのよ)
ドリンクのお水はペットボトルスタイル。骨董品とレースのテーブルクロスの上でいただくクリスタルガイザー、中々粋です。卓上もアンティークな演出が潜み、一つ一つが愛しい。
懐かしく親しみ深い香りを纏って運ばれてきた「この場所に来ないと食べられない」特別なカレー。
含んだ瞬間、口を駆け巡る出汁の旨味。少しとろみのある汁は、力強い風味と深み、そして優しくフェードして最後は丸みが舌先に柔らかく残る。スパイスは決して主張せず、出汁の良さを上品にエスコートする紳士な振る舞い。でも、残り香は忘れない。
はぁ。新しい感覚に、味覚がときめきます。
名前通り、和だしが引き立つ一皿。
和食・寿司・ラーメン・焼肉・居酒屋など、さまざまな現場で経験を重ねてきたオーナーさん。
巡り合わせで出会ったこの場所を一目見て、「カレーをやってみよう」と。
これまでの修行経験とこの空間が溶け合い生まれたのがこの「和だしそぼろカレー」なのです。カレーのスパイスの強さに負けない、しっかりした出汁をひくため、2種類のかつお・昆布・どんこ・いりこをふんだんに使い、かえし(醤油)を使用したこだわり。スパイスは、15種類を独自の配合でブレンドされており、繊細にカレーの奥行きを広げます。
さあて、欲張って山盛りにこさえたトッピング達とのセッションの時間。
定番で鎮座する、肉そぼろ、大葉、揚げ玉、かつを節、梅干しに加え、たくあん、ひきわり納豆、みょうが、オクラ。ほうれん草、温泉玉子の山をカレーの麓に崩せばまた新たな風景。
和だしの土台に、和の具材精鋭軍が香味、甘み、旨味を重ねて、口は幸せなハーモニーに包まれる。出汁の味わいを引き立たせる伴奏、そこに揚げ玉、たくあん、みょうがの愉快な食感と加わり、うっとりと浸ってしまいます…。
ほら、全部のせて大正解でしょ。
卓上に添えられた山椒を一振りすると、また爽やかなベールを纏います。
和がベースだからこその相性の良さ。
カレーのお供、誰と手を組むかでまた追求に深みがでるんですよね…。
(本当に沼すぎて困るよ、掘っても掘っても底がない…食いしん坊にはうれしい悲鳴です)
実は、限定のトッピングメニューも控えているのです。
本日は、ぶーたれ(ぶたのやわらか煮たれ焼き)、ねぎまみれ、赤ウインナー何本食べる?…などなど。
食いしん坊で冒険家のあなたには、ぴったりのお供です。定番のほかに限定という仕掛けは、また新しい出逢いの予感を求めて訪れたくなる。あぁ、ずるいです。このまた奥の美味しさ、新しい掛け合わせを知りたくなっちゃうもん。(初回でこんなにもメロメロなのですから)
日本人に馴染みのある「和だし」。身体と本能に刻まれたジャパニーズソウルとカレーの共鳴。はじめてだけど、どこか懐かしく、あたたかく私たちを迎えて包んでくれる「平日昼だけ」のカレー。
これは「こたつ」のような包容感と中毒性がありますね。
でたくない、また味わいたい、…うーむ好き。
異質な空間で味わう、優しいカレー。
視覚と味覚のギャップにくらくら酔いしれ、和出汁の安堵に満ちた温度に潜む、私たちのお腹と心を魅了する魔性の顔。
開店と同時にお客さんが立ち代わり入れ替わり集まる理由にも納得です。
素敵な感性を持ち、一皿に唯一無二の温もりを編み出すオーナーさん。
キッチンから覗く優しい笑顔が印象的でした。
顔出しはされていませんので、恒例のツーショットは入口のハンサムロボットくんと。
あぁ、素敵な空間で嗜む美味しいカレー。
五感が幸福なひとときでした。食後のコーヒーを片手に、高円寺の街へ。
ああ、よい平日の昼下がりだなあ。
Text:Rinko Murata
Photo:Kayo Sekiguchi
Edit:Miiki Sugita