【10月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

©2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

 

1.『あゝ、荒野』

「私の墓は、私のことばであれば、充分」
そのことば通り、強く熱い閃光のようで、やわらかく瑞々しい遠い波の音のようでもある、多くのことばをこの世に遺した寺山修司。
詩や戯曲をはじめ、様々な形態で残されてきた、人間の真ん中に問いかけるようなことばの輝きは、今もなお衰えることを知らない。

「あゝ、荒野」
寺山修司の唯一の長編小説であり、文学に別れを告げた最初で最後の長編小説でもある。
「文学的価値の論争をされるより、できるだけ多くの人に読んでもらいたい」
寺山はそうあとがきに書いたという。

そんな小説への敬意と賛辞を色濃く残しながらも、今を生きる者に打つ。
映画の舞台は、小説からそのまま50年が経過した新宿だ。
1960年代の孤独と2017年の孤独。時間は流れ、人も流れていくが、木のように、孤独はそこに座っている。血は立ったまま眠っている、のだ。
孤独を孕んだ命と人生。何が素晴らしいのか。何が恐ろしいのか。
血肉沸踊る瞬間と脳まで凍ってしまいそうな瞬間を繰り返して、熱く上り詰めながら、冷めた目をして生きている私たちにとって、これは、今観なくてはならない映画かもしれない。

抱き合ったり、ぶつかったり、背負ったり、おぶさったり。
人と人の肌が密接に触れ合う描写が一際多く感じたスクリーンを通して、
人間という言葉が、“人の間”と書くその本質を、孤独と向き合わざるをえないその本質を、問われているような気がした。
そして、そのこの体にも赤く熱い血が流れているそのことを、恐ろしく、そして誇らしく思った。

▼あらすじ
ふとしたきっかけで出会った新次とバリカン。見た目も性格も対照的、だがともに孤独な二人は、ジムのトレーナー・片目とプロボクサーを目指す。おたがいを想う深い絆と友情を育み、それぞれが愛を見つけ、自分を変えようと成長していく彼らは、やがて逃れることのできないある宿命に直面する。
幼い新次を捨てた母、バリカンに捨てられた父、過去を捨て新次を愛する芳子、社会を救おうとデモを繰り広げる大学生たち…。2021年、ネオンの荒野・新宿で、もがきながらも心の空白を埋めようと生きる二人の男の絆と、彼らを取り巻く人々との人間模様を描く、せつなくも苛烈な刹那の青春物語。



https://www.youtube.com/watch?v=upH_6ILHDtM


▼Information
『あゝ、荒野』

10月7日(土)前篇、10月21日(土)後篇 新宿ピカデリー他2部作連続公開

原作:「あゝ、荒野」寺山修司(角川文庫)
監督:岸善幸
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア 他
制作・配給:スターサンズ
公式HP:http://kouya-film.jp

 

©FILM NELLY INC. 2016


2.『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』

—命がわたしをすり抜けていった。
作中の台詞を借りるのであれば、“急上昇して明け方には墜落している”ような、時にまたその逆もあったかもしれない。そんな激情の中、エロティックで過激であり続けた彼女は、何を感じていただろう。
過激さの反面、感受性が高く、繊細で、ゆるぎない愛を求める孤独な少女性を抱えながら、生と性の狭間でもがき自ら命を絶ったひとりの女性ネリー・アルカン。


自伝的小説「Putain(原題)」で彗星のごとくフランス文壇に現れ、センセーションを巻き起こした伝説の小説家。類を見ない文体と作品のインパクトはさることながら、その美貌と高級エスコートガールだったというスキャンダラスな過去は、より一層世間の興味を引いた。

作品のどこがノンフィクション?
預かりしれないところで、評価されることへの嫌悪と不安。
ネリーはいつしか、ふと生きたまま抜け殻になって、誰かを演じるようになる。
世間を騒がせるセレブであり、愛を求めるジャンキーになる。
映画製作に際して、アンヌ・エモン監督も彼女の知人方々から話を聞いたが、すべてが別人のようだったという。
彼女がついた嘘が彼女の人生を複雑にした、と監督は語った。

成功による安心感はなく、ただ喪失感だけを感じる日々。
言葉、性、美しさ、醜さ、成功、挫折、過去。そして、愛と孤独。
そのすべてに苦しめられたネリーは、愛と孤独の淵でこう叫んでいるように見えた。
ただ温かい腕に抱かれて、朝まで一度も起きることなく、眠りたい。
嘘の多かった彼女だから、そして、その嘘すべてが「彼女である」という真実であったのだから、本当のところはわからない。
でも、ほんの一瞬、聞こえてきた気がした。
女の叫びのように荒々しく、少女の祈りのように壊れやすい彼女の声。

▼あらすじ
高級エスコートガールだった<ネリー・アルカン> 、自身の過去をモデルにした小説がフランスの編集者の目に止まり、華々しく文壇デビューを飾る。美しくも残酷なエロスが話題の作品には男たちを虜にする妖艶な<シンシア>が描かれ、世間の興味はシンシアがネリー自身なのかということに集中する。やがてネリーは、自分が生み出した分身(ペルソナ)たちに、心の奥に隠していた<本当の自分>を蝕まれていく。 

 

▼Information
『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』
10月21日より YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

監督・脚本:アンヌ・エモン
プロデューサー:ニコール・ロベール
出演:ミレーヌ・マッケイ、ミカエル・グアン、ミリア・コルベイ=ゴーブロー
配給:パルコ
公式サイト:nelly-movie.com

 

Ⓒ2017 KingRecords


3.『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・オブ・スリーピング ビューティ-』

女優を夢見てこの街に来たのは10年前。それから今まで、美しい思い出は、かつての恋人との、それこそ夢のような時間だけだ。
何故生きるのか? 何を夢見たのか? 何を目指すのか?
自分が生きてきた人生の軌跡、今生きている現実、叶えられなかった夢への妄想が入り乱れる。そして2つの世界の境界が壊れようとしたとき、再生がはじまる。

若干25歳の若手監督・二宮健、満を持しての商業映画デビュー作。
2014年に発表された『眠れる美女の限界』をベースにセルフリメイクした本作に、出演者も豪華な面々が集った。
主人公オリアアキ役は、数多くの話題作への出演が相次いでいる桜井ユキ。体当たりな演技はもちろん、刺すような眼差しが魅力的だった。そして、恋人のカイト役には、今最も胸を熱くさせる俳優、高橋一生が抜擢された。

中学時代から40本以上の自主映画を作り続けた若き新鋭のオリジナル脚本と、緻密でインパクトのある映像で魅せる高揚感と下降感、待った無しの非現実感。
過去と現在、現実と妄想を行き来して、眠るように生き、生きながら眠る一人の女。舞台は、それそのものが夢かうつつか、その境界が揺らぐようなサーカス団。そのシチュエーションが、観る者の想像力により拍車をかけ、時系列、物語の体感時間も容赦なく錯乱していく。

最後に残るのは、ジェットコースターのような疾走感と、怖い夢から覚められず世界に対して抱く焦燥感。そして、圧倒的にドリーミングな映像美だ。
この夢の中で止まっていたいという心の温度が伝わってくるアキの切実さと、
ラストシーンの撮影では監督も思わず涙したという、カイトの静かな優しさ。
ここに希望を見出せることができた時、これは再生の映画なのだと気づかされる。

▼あらすじ
主人公・オリアアキは、29歳の売れない女優。女優を夢見て上京し、ふと立ち寄ったバーでサーカス団を営むカイトに出会う。それから10年、毎日小さなサーカス団でマジシャンの助手をするアキ。30歳を目前にしたアキには仕事への熱も生きる目標もない。ルーチンワークのように繰り返されるのは、催眠術にかかるという演技。
体を浮かされ、剣を刺され、催眠状態を演じているうちに、やがてアキの精神は徐々に摩耗し、いつしか現実と妄想の境界が破たんを迎えようとしていた。


▼Information
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・オブ・スリーピング ビューティ-』
10月21日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

原案・脚本・監督:二宮 健
出演:桜井ユキ、古畑新之、佐々木一平、新川將人、成田凌、山谷初男、満島真之介、高橋 一生
配給:アーク・フィルムズ
公式HP:http://sleepingbeauty-movie.com


 

©2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels  - UCG Images - France 2 Cinema


4.『ポリーナ、私を踊る』

原作は、フランス漫画界期待の新星バスティアン・ヴィヴェスのグラフィックノベル「ポリーナ」。BD書店賞やACBD 批評グランプリに輝いた人気作が映画『ポリーナ、私を踊る』として、幕を開ける。

バレリーナとして将来を期待されていた少女ポリーナ。
ある日突然であったコンテンポラリーダンスに魅せられ、引き寄せられ、彼女の運命は大きく激しく変わっていく。数奇な運命に翻弄されながら、突き詰められていく芸術性と描く未来の自分。

ポリーナを熱演したのは、彗星のごとく本作で映画デビューを果たしたアナスタシア・シェフツォワ。ポリーナの内面をあぶりだすような所作と表情、そして踊り。
バレエカンパニーに所属する実力派ダンサーにしか滲み出せない踊りへの葛藤と熱量を体現した演技は鳥肌モノだ。

芸術を追求する時に必ずつきまとうのは、内側を表現するということ。
タイトルに、“私を踊る”という言葉が付けられたことに頷く。
歓び、哀しみ、失意、葛藤、欲望。
細くしなやかな体に宿る、熱く波打つ感情がスパークする時、踊りは輝きを増し、熱はうねりを見せて観るものの胸を打つ。

「きれいじゃなく、生身のあなたを見せて」
“内側”を目に見える形で表現することの難しさと素晴らしさ、そしてそれが表現者の生き方そのものに直結しているということ。
躍動感を以て、かつ緻密にエモーショナルに描かれた少女の成長に心を動かされた。

▼あらすじ

ボリショイバレエ団のバレリーナを目指すロシア人の女の子ポリーナは、厳格な恩師ボジンスキーのもとで幼少の頃から鍛えられ、将来有望なバレリーナへと成長していく。かの有名なボリショイバレエ団への入団を目前にしたある日、コンテンポラリーダンスと出会い、全てを投げ打ってフランスのコンテンポラリーダンスカンパニー行きを決める。新天地で新たに挑戦するなか、練習中に足に怪我を負い彼女が描く夢が狂い始めていく。

 


▼Information
『ポリーナ、私を踊る』
10月28日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

原作:「ポリーナ」(ShoPro Books) (著者:バスティアン・ヴィヴェス、訳:原正人)
監督:ヴァレリー・ミュラー&アンジュラン・プレルジョカージュ
脚本:ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジュリエット・ビノシュ、ジェレミー・ベランガール、アレクセイ・グシュコフ
配給:ポニー・キャニオン
公式HP:http://polina-movie.jp


 

©2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会


5.『彼女がその名を知らない鳥たち』

サスペンスと一言で括るにはもったいない。
ヒューマンであり、ラブストーリーでもある。ただ、夢みるラブストーリーじゃない。もちろん、壁ドンも胸キュンもない。
「愛とは、究極の愛とは何か」という問いかけを突きつける、ただただシビアでリアルな作品だ。

沼田まほかるの心の奥底まで深く入ってくる、剥き身で勇敢なあの筆致に夢中になって、立て続けに読んだ時期があった。「九月が永遠に続けば」「猫鳴り」「ユリゴコロ」、そして、「彼女がその名を知らない鳥たち」。
主人公たちはみんな、誰にも理解されない苦しみと、その反面誰にも理解されたくないという傲慢さを同じ心に住まわせていた。そして、そこに寄り添う愛、愛、愛。なかでも、この『彼女がその名を知らない鳥たち』の挺身の愛のインパクトはすごかった。

クレーマーで自分勝手な女・十和子は、彼女に異様な執着を見せる不潔で下劣な男・陣治を嫌いながら同じ屋根の下に暮らしている。妻子がありながら十和子と肉体関係を結ぶゲスな男・水島、十和子の昔の恋人で、彼女の心にも身体にも深い傷を残したクズな男・黒崎。はっきり言ってダメなやつしか出てこない。そして、彼らの言動に激しく反発しながらも、人間の弱さと狡さを思い知らされていく。

気がつくと、人は人をどこまで愛せるのか。そして、同時にどこまで憎めるのかということを改めて考えさせられていた。
人間は不完全で弱くて狡い。そして、愛は時に分かりにくいものだから、私たちは選ぶ道や方法を間違うのかもしれない。
シビアでリアル、そしてまっすぐと心を刺す映画だ。

▼あらすじ
八年前に別れた男・黒崎を忘れられない十和子は、今は15歳上の男・陣治と暮らしている。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治を激しく嫌悪しながらも、彼の稼ぎで働きもせず日々を過ごしていた。ある日、十和子は黒崎の面影を思い起こさせる妻子ある男・水島と関係を持ち、彼との情事に溺れていく。そんな時、家に訪ねてきた刑事から「黒崎が行方不明だ」と知らされる。どんなに足蹴にされても文句を言わず、「十和子のためなら何でもできる」と言い続ける陣治が、執拗に自分をつけ回していることに気付いた十和子は、黒崎の失踪に陣治が関わっているのではないかと疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと怯え始める――

▼Information
『彼女がその名を知らない鳥たち』
10月28日(土) 新宿バルト9他全国ロードショー

原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)監督:白石和彌
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
製作:映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
配給:クロックワークス
公式HP:http://kanotori.com


Text/Miiki Sugita

出典:She magazine

INFORMATION

毎日がちょっとおしゃれに楽しくなるWEBマガジン
“She magazine”
http://she-mag.jp
 

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